皆さんはどんなふとんで寝ていますか、それは誰が作ったのか知っていますか。今、町からふとん屋さんがどんどん少なくなっています。

  私たちの周りには工場で機械生産された物が溢れています、ふとんも例外ではありませんが、昔は生活必需品を作る人が売る人でした、だから素材の持ち味を生かした品物を作ったものです。

  最近は、化学繊維や羽毛で作られたふとんが多くなり、消費者に作った人の顔が見えません、これは作る側からすれば使う人の顔もまた見えません、そうなると出来上がる品物の責任は誰に対して負うのか不明確になるのです。

  私はふとん屋で、手作りふとんを毎日作っています、その技術は父や多くの職人の技術を見て、自分の工夫を加えてやってきました、とは言うものの簡単には習得できるものではありません、小さい時からふとんの作り方を見てはいたのですが、いざ自分で作ってみると、とてもひどいものしか出来なかったはずです。

事実、私は自分の技術が20年経っても未熟と思っていたので、少しでも上手になり良いふとんを作りたいと腕を磨いてきました。

第5回の技能グランプリで優勝し、金メダルと寝具業界で初めて『内閣総理大臣表彰』を頂いても、上手になったとは思えなかったのです。

その後、藍綬褒章・ものづくり日本大賞『内閣総理大臣賞』・現代の名工と色々評価をして頂いても、まだ上手になりたいと修行しているつもりです。

ふとんを作り、売るならば全ての責任を自分で持つべきと私は考えます。その為にはホコリになりながらも、ふとん綿を打って(作る事です)、自分の手で全てのふとんを作ります。

今の世の中、良いものを作る職人よりも、より高く・多く物を売る人が誉められる時代になってしまいました、大変残念です

 令和6年度、寝具技能士の検定が開催されます、ふとん職人の受検を募集します

   職人の世界もただ経験や技能だけでは良いふとんは作れません、知識も必要となって来ている現在では、いろいろな職業(133職種)に技能士と呼ばれる国が公的に証明する技能検定制度があります、『寝具技能士』もその一つで、ふとん作りの日本版マイスターのようなものです。ふとん店の中にはいかにも、公的資格のような呼称を標榜している場合がありますが厚生労働省の認めている公的資格は

『寝具技能士』以外、何もありません。似たような資格は全て、私的で根拠の乏しい??ので、注意が必要です

   技能士の試験には経験年数と技術差により1級、2級とに分かれ実技と学科が課せられます、実技として1級は夜着の製作、2級は掛けふとんの製作をするのです。講義を受けるだけで得られる資格とは、全く違います!

1級技能士になり、県大会で優勝すると全国技能大会(技能グランプリ)への出場資格が出来るのですが、私に昭和61年、そのチャンスが巡ってきたのです。大会は2日間で座布団5枚、掛敷ふとん1組、丸座布団2枚を規定通り作るのです。この 技能グランプリで優勝をした時に内閣総理大臣賞を受賞しました。内閣総理大臣賞はふとん業界では初となり,本当の意味で日本一のふとん職人と賞賛を受けました,お陰で母校の名城大学理工学部・機械工学科の機械会より表彰をしていただきました

 今では受賞に恥じないふとん作りをしている毎日です、使い心地の良いふとんを作るためには時間がかかってしまい何年も待っていただくお客様が居ます。誠に申し訳ない事です。

 最近,「ふとん職人」は私にとって天職と思えるのです,家業のふとん屋に生まれたからだけでなく,良いふとんを作る事への情熱と工夫は常に持ち続けていることで,ふとんに関する素材や歴史の知識欲は,全て『ふとん道』への修業に思えるのです,ふとん作りは自分との対話とか挑戦のように思っています,常に「喜ばれるふとん作り」を目指すのが今の私に科せられた使命のようにも思っています 2011.1.9

私が昭和61年に第5回技能グランプリで優勝したのですが、当店の5代目職人となる息子が平成23年3月に第26回技能グランプリで優勝をしました、親子で技能グランプリ優勝をした職人は未だ知りませんが、努力は報われ『努力は嘘をつかない』の如くです

ふとん職人の道を選んだ時から目標として、厳しく指導をしてきましたが結果を出したのは本人です、ずいぶんプレッシャーも有ったことと思いますが、当店の技術を証明してくれた事に息子でも敬意を表したいと思います

息子が、平成22年3月、国家検定の『寝具技能士1級』に合格しました、合わせて愛知県寝具技能競技大会において優勝をして、愛知県知事賞を頂きました、私から見るとまだまだの職人ですが、日々私の元で修業をして技術を磨いています、手先が器用なので10年もすれば私と同様の技能を持つものと期待していました。

もの作りは材料を見る目と技能に対する追及がなければ、誰もが認めるものは出来上がらないと思っています、その為には同じ職人としての目線だけでは、もう一段上る事は出来ないと考えて、これで良いのか? 本当に、これで良いのか? と思いながらふとんを作る毎日です

もめん綿のふとんを和式ふとんとか和ふとんと呼ばれ事がありますが、確かに中国の綿ふとんやインドなどの綿ふとんとは作り方も違えば、寝心地もまったく違ったものです、自画自賛かもしれませんが私達日本の職人が作る品物は、知恵と経験をこれでもかと思えるほど気を使って物作りに励んでいます、是非皆さんの周りから見つけ出して、職人の心意気を感じてください、物作りも出来ないのに何でも知っているような気になっている人達には3K・4Kの現場を体験してほしいものです、良いものはハスの花が咲く如く、その陰には職人達のたゆまぬ努力と工夫があるのです

私が作るふとんは一日に四枚も作ればいい方で、気分良く心穏やかにふとん作りに没頭していると、時間の流れが無い様に感じる時があります、これこそスローライフとでも言える時間の流れなのでしょうか、綿を見極め、綿打ちをしてふとん綿を作り、縫ったふとん側の上にふとん綿を一枚づつ丁寧に積み重ねる綿組みをする時に、出来あがりを予感しながら隅々まで気を使って指先を動かして、出来あがったふとんは、私の技と綿のコラボレーションの完成形です、使い心地は実感する事は出来ませんが、この時がふとんの最高の状態で、使うたびに少しづつ悪くなって行くのが寂しい反面、使い心地はどうだったっのか心配をする毎日です

先日、私が連載している『手の仕事』で江戸時代のふとんは大工さんが2ヶ月も働かないと手に入れることが出来ないくらい高価なものだったと書きましたが、今でも高価なふとんが良いふとんと思ってしまう人も多いようです、付加価値は目に見えないことが多いのですがマイナスイオンとか遠赤外線とかに惑わされないようにしてほしいものです

最近、新しい種類の寝具が多く出回っていますが、ほとんどが化学繊維で出来ていますので、吸湿性とか寝心地が良いのか心配になっています。

 ゴミの減量や資源の有効利用が話題になる割にはふとんのが捨てられているのは何故なのでしょうか?

私はふとん職人なのでふとんに関して言えば、ふとんの仕立替え・綿の打ち直しは江戸時代から行われてきたのです現代的にに書けば、リユースとリサイクルなのです

調べてみると綿のふとんを使っている人々が、アジアからヨーロッパまで30億人以上もいます、羽毛ふとんを使っている人は外国でも少数派なのですが、日本の多くの人はもめんのふとんは外国では使っていないと思っているようですが、まったくの認識違いです

FUTONはヨーロッパでも多くの人々が使っている敷ふとんの代名詞になりつつあります、禅の精神と同様に寝具のFUTONは欧米などの国々では憧れの的になりつつあるのです、羽毛ふとんも良いのですが、もめんのふとんほど人類の役に立つふとんはないと思います

もめんの良さはいまさら書かなくても多くの人に知られている事です、私達が毎日、身に付けている下着はもめんである事からも判ってもらえるはずです、もめんのふとんが古臭いとはもめんの良さを知らない者の言葉かもしれません

もめんのふとんは古い伝統を持っていることは、素晴らしい寝具であるから今も使われ続けられているのです,イギリスでもFUTONの文字を見かけましたが,ヨーロッパでもFUTONが広がっていたことは嬉しかったです

肌に良い物はふとんに使っても良いはずなのに、化学繊維100%のふとんが赤ちゃんのふとんとして健康に良いなどと、心も無いような宣伝には驚かされます、少量の使用ならば問題は無いのですが、色々考えさせられます。

お母さんになる皆さん、どうか大事な赤ちゃんには綿か絹(真綿)を主に使ったふとんを使って上げて下さい。

今、多くの消費者が自分で使っているふとんの素材を知らずにいます、それはふとんの選び方も知らないのでホームセンターや量販店で価格を重視して使い心地の悪いふとんを購入しているのが原因なのかもしれません、町のふとん屋が減っているのも同様だと思います

私が高等学校で座布団作りの時間を依頼されているのですが、何もい言わず私の作った座布団とウレタンの座布団に座ってもらうとほとんどの生徒が私の作ったもめんの座布団の方が気持ちが良いと言ってくれます、知識や先入観の無い生徒さん達はすばらしい感覚の持ち主です

世の中には良い物が多くありますが、ふとんについて言えば、職人が良いふとんを作っていれば1日に出来るふとんは数枚です、消費者の人も良いふとんが安く大量にあるはずが無い事を知ってほしいものです、だからと言って価格の高いふとんが良いふとんの代名詞かと問われればそれは間違いです、どうか皆さんのお近くのふとん屋を育てるつもりで利用して下さい、良いふとん屋はお近くにあるはずですから、お願いします。